ヘンプ(大麻)糸の原料・加工方法について(徒然と..)
写真は、期間限定ショップ@渋谷MODIにおける店内装飾の一部です。
本日は、この写真から、よく聞かれる質問『糸の原料、加工』について、徒然と書いてみました(長文注意)。
◆繊維原料について
まず、飛び込んでくるのは、黄金に輝く『精麻』ですよね。この麻繊維の加工技術は日本だけ。マルコポーロが『黄金の国・ジパング』と言ったのは、この精麻を見たから、だという話を聞きます(真偽は不明です)が、それを説得させられるかのような麻の加工技術です。
ここから糸をつくったり、しめ縄といった神仏の麻製品がつくられます。
日本の最高級の大麻糸は、この精麻から手で糸を作り出します(手績みといいます)。この作業が大変な技ですが、日本の母は、麻を栽培して、糸を績んで、生地をつくって、生活の糧(麻布は貨幣同然)にもしていた歴史があります。
たとえば、長野県木曽郡木曾町(旧:開田村)の話。
このページ最後に記載したリンク先の文書(以下に再掲)を読んでみてください。日本の母の偉大さがわかります。
■麻と生活-村人の生活と麻織物(PDF)
http://www.kaidakogen.jp/guide/guide03/asa1.pdf
ちなみに、最高級の繊維原料は群馬の岩島麻とされます。
良い糸をつくるためには、麻の栽培も精麻づくりにも独特な工夫が要ります。群馬県の岩島麻(現在の群馬県吾妻郡東吾妻町)は、糸用の原料としては一級品。収穫から加工まで全て手作業で仕立て上げられる麻はまさに芸術品そのもの。毎年宮内庁や伊勢神宮にも奉納されており、一般に出回ることのない幻の麻とされています。(現在は岩島麻保存会のメンバーで継承されています。)
近江の麻で著名な近江商人も高級麻布用の糸原料として岩島へ買い付けにいったそうです。糸づくりは近江で行い、高宮布・近江上布として大麻布が発展していきます。
一方、縄・ロープなどの産業資材、農着用などでは、茎から剥いだ繊維を櫛のようなもので裂きながら細くしていくのが一般的です。
この映像はわかりやすいですね。
冒頭写真の精麻は、栃木県那須郡那須町の渡辺さんが仕立てたものです。
栃木県は、主に神事用の栽培が盛んです。しめ縄など神仏仏閣の麻製品、凧の縄、和弓の弦、花火、下駄の鼻緒、、など日本の伝統品になくてはならない麻原料を提供しております。栃木県では鹿沼市の野州麻が日本に残る一大麻産地です。以下は鹿沼・大森さん麻畑の訪問記ですね。
「麻のしめ縄」は、栃木県北部の那須で農業を営んでいらっしゃる渡辺さんの麻をもとに、京都の職人・山川さんにて製作いただいた逸品です。
◆紡績糸 ~麻福でつかっている糸について~
ただ、工業的に流通する製品は、こういった精麻からはつくれません。『日本の麻でつくった糸なんですか?????』という質問をよくいただくのですが、機械で作る糸(紡績糸)は、大量の繊維原料と専門の生産ラインが必要です。
手績みの糸と紡績の糸を比較したこちらの記事をご覧ください。
紡績用の糸の原料は、下記のようなかたちで農家から工場に収められます。細くて丈夫な糸をつくるためには、農家での栽培・繊維加工がポイントとなるのは、手績みの糸と同じです。良い糸は、農家との長いつながり(連携)がないと誕生しません。
これをもとに糸をつくっていきますが、糸をつくる前に重要なのが「スライバー」づくりです。スライバーづくりにもヘンプ独特の工程が沢山あります。圧力を加えたり、裂いたり、干したり、、それはそれはたくさんの工程があります。ここでは詳細は省きます・・
一般的な麻の衣料品といえば「リネン(亜麻)」「ラミー(苧麻)」ですが、ヘンプの面倒なのは、こうした処理にあります。単純に『面倒くさい』『採算が取れない』。。たくさんの加工工程があるということは、その段階ごとに『多くのロスが発生』します。
糸の細さにもよりますが、ヘンプは糸になるまでに半分以上の繊維ロスが発生します。高品質な糸であればあるほど、繊維ロス量も増えていきます。 一方リネン、ラミーは、10~20%だという工場の技術者の嘆きが印象的です(もちろん、糸の細さ/加工方法によって異なります)。生の繊維を触った方はいらっしゃいますか?剥いだだけのリネン繊維を裂くだけで立派な糸にも思えてきます。
ちなみに、よく薬剤を使って糸をつくっている、とか話する方もいますが、工員は基本的に素手です。何十年働いている方でも、手は荒れていません。
何度も言いますが、このスライバーをつくるだけで相当な繊維ロスが発生します。豊富な繊維原料が残っている土地=中国がヘンプ紡績の今後を握っていると言っても過言ではありません。
このスライバー(繊維束)を撚(よ)る[補足ねじるイメージ]ことで糸にします。
イタリア、あるいは、日本などでも紡績をしている場合もありますが、中国から輸入したヘンプスライバーをもって糸づくりを行っていることがほとんどだと思います。
中国製というと、粗悪なイメージをもたれる方も多いですが、バランスもって付き合っていかねば、ヘンプ製品を拡げていくことはできません。
麻福で付き合っている(ヘンプ糸の大部分を輸入している)のが、中国ヤンガーグループが主導するヘンプ糸工場です。同グループは例年アパレル分野における売上・利益高でTOP3に入る巨大企業になりますが、私・北村とは運命的な縁があり長年の付き合いをさせていただいております。
グループの董事長(一番エラい人)は中国人民大会のメンバでもあります。それゆえ、中国政府(人民解放軍)との協同プロジェクトでヘンプ糸の研究開発を担っています。下記はそんな国家主導の麻プロジェクトの模様です。
なかなか素敵な試みでしょう? 日本でもやれば良いのに、といつも思います。
いろんなチラシで登場している写真は中国・雲南省です。この地の麻で糸をつくっています(雲南以外の地域で栽培されているのも多いです。特に黒竜江省などの中国東北地方。)
◆麻福製品の生産地
麻福では、糸、また一部生地を信頼おける中国専門工場から直接輸入して、日本各地の生産工場(各アイテムによる)さんと連携の上、製品をつくっています。
「日本製と表示していながら日本の麻原料ではないの???」と言われることもありますが、日本の法律では、製品の最終加工地が原産国となります。したがいまして、糸は海外のものでも、日本で縫製・編立したものは日本製となります。
日本の麻原料での糸を要望される声は非常に多いです。ただ、5haも麻の作付面積がない日本では、まず原料がありません。まして、繊維ロスの多いヘンプです。戦前のように、日本各地あらゆるところに麻であふれんばかりになれば、また状況は変わるかもしれませんが、現状、手績みの糸を除けば日本麻原料による糸は難しいように思います。
(ただ、上でご紹介した『https://asafuku.net/?p=3060』にあるような方法では、産業資材用や、厚い帆布用の生地なら、日本麻原料でもなんとかなるはずなので、いつか実現してみたいと思ってはおります。)
生地の生産には、今後も積極的にいければ とも思っております。冒頭写真の右下にある「かるふわストール」は、日本の和歌山県での織りたてでした。シャットル織機という古い織機で、小幅なのに1日に織ることができるのは7mだけ、、と、大量生産で成り立つ中国にはなかなか残っていない織機です。
とくに、こうした日本でしかできない生産拠点(技術)との連携(ものづくり)は意識して行っていきたいと思っております。
◆オガラ(麻幹)の話
冒頭写真に戻っていただき、しめ縄をかけているのが「オガラ(麻幹)」です。こちら茎の表面から繊維部を剥いだあとに残る木質部を乾燥させたものになります。
原料マップでいうと下記参照ください。
しめ縄がかかっているのは「種子用」に栽培された麻です。繊維用は、種子用に比べて一般的に早く収穫するので、オガラの背丈も短くなります。そして、枝を左右に広がるように栽培(間隔を開けて栽培)するので、茎は太くなり、オガラにも枝を切り取った跡が残ります(なので、しめ縄をかけるフックができました)。
そんなオガラもいろんな用途に使えますね。
以上、いかがでしょうか。徒然すぎるので言葉足らずですが、何か『なるほどー』と興味いただけましたら幸いです。
さて、麻福の期間限定ショップも29日(水)までとなりました。大勢の方々にお越しいただき、ありがとうございます。残り2日になりましたが、あまりない機会ではありますので、ぜひお越しくださいませ。(29日の最終日は21時ころから片付けに入ります。あらかじめご容赦ください)
私・北村は 明日28日(火) 19時~23時ころまでお店におります。29日(水)は、16~21時ころまでは店付近にいる予定です。よろしければ、お越しくださいませ。意見交換いたしましょう。
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