竹について思うこと(竹 ≒ 竹レーヨン・バンブーレーヨン ?!)
「ヘンプ(麻)」と「竹」の素材はないのか?とのお問い合わせを受けました。ただあいにく、現状ご用意しておりません。
また、日頃「竹」素材についての見解をお寄せいただくことも多いので、この機会に当方の考えをまとめてみたいと思います。
■「竹」のイメージ
植物の「竹」に抱くイメージとしては下記のようなイメージを抱かれると思います。
・竹の成長は早い。それは、1晩で1m以上も成長するくらい。
・毎年種を植える必要ない。農薬を用いる必要もない。
・昔から、おにぎりを包む竹皮として使っている位に天然の抗菌性がある。
・丈夫な繊維
冒頭画像のような竹林には爽やかさを感じますよね。
■衣料品で用いられる「竹」=「竹レーヨン」
衣料品で用いられている「竹」は、ほぼ大部分が「レーヨン(竹レーヨン、バンブーレーヨン)」 になります。
竹繊維は、実は2mm程度の繊維長しかなく、単一の繊維にて紡績するには繊維が短すぎて糸になりません。だからといって、竹繊維を数十・数百本束ねて糸にしようとしても、今度は繊維が太く硬すぎて衣料用で求められる糸にはなりません。
したがいまして、「竹」はレーヨンを製造する方法にて紡績用の糸にして用いられています。
(補足)
i.最近は、竹繊維そのものから適度な太さと長さ、また柔軟性をもった糸をつくる技術も開発されているようです。「開繊竹繊維」と呼ばれるそうです。
ii.おにぎりの竹皮、あるいは、竹の繊維をつかった草鞋、竹
■レーヨンの繊維素材上の分類
「レーヨン」は、繊維素材の分類上は「化学繊維」に分類されます。もっというと、再生繊維(再生セルロース繊維)と呼ばれます。
「竹」というのに「化学繊維」?! よくわからなくなる方もいらっしゃるかもしれません。
「レーヨン」の原料として最も用いられるのは「木材」です。「竹レーヨン」の製造工程もほぼ一緒です。下記は「レーヨンの製造方法」ですが、「木材」を「竹」に置き換えてご覧ください。
木材パルプを原料として、パルプの中の天然セルロースをアルカリ(苛性ソーダ)処理した後、二硫化炭素と反応させてセルロース誘導体をつくり、これをアルカリ溶液に溶解させて原液(ビスコースと呼ぶ)とし、この原液を細い孔が多数ある“口金”から酸性浴中に押し出し、繊維を形成させながら化学反応させて、セルロースを再生します。
レーヨンは、このような製法によるため、ビスコースレーヨン、または、ビスコースと呼んでいます。(引用)一般社団法人 化学繊維振興会(図・文章ともに)
竹を、苛性ソーダでドロドロの溶液状(ビスコース)にした後、微細な穴から押し出すことで作り出す糸=これが「竹レーヨン(バンブーレーヨン)」です。
●レーヨンの特徴
「レーヨン」の長所・短所としては下記のようなものがあります。
長所:
1.独特の強い光沢があり、染色しやすく発色性に優れている。
2.吸湿性があり、静電気を発生させにくい。
3.ドレープ性に優れている。
4.再生可能な資源を使用しており、比較的安価である。
5.耐熱性があり、高温でも軟化、溶融しない。
短所:
1.吸湿すると極端に強度が小さくなる。
2.寸法安定性が低く、しわになりやすい。
3.プリーツ性がない。
(引用)一般財団法人 ボーケン品質評価機構(旧:日本紡績検査協会)
その他、長所としては下記のようなものもいえるかと思います。
6.焼却した場合でも有害物質の発生がほとんどない。
7.セルロース100%なので、生分解性で自然分解します。
強い光沢、ドレープ性(布のやわらかさ。優雅なひだをとってたれ下がる性質。柔らかい肌触り なども広義に含まれるかと思います。)吸湿性、静電気 を発生させにくい、、、、これはレーヨンの特徴ですが、、竹衣料品の特徴として捉えられえいる方もいらっしゃるかもしれません。
■レーヨン(ビスコース法)は地球環境に悪い?
レーヨンは、上述のようなメリットはありますが、製造時の環境への影響のため(製造時の二酸化炭素が発生する問題や、また、苛性ソーダ等の薬剤は劇薬に分類(直接触れると火傷したり、化学反応でガスを発生させたりするので、取り扱うのにはとても危険な代物です。)されており、環境汚染につながる恐れがあるなど)竹レーヨンを悪としている会社もあります。最も著名なのはパタゴニア社(参照:竹とレーヨンについて)ですね。
たしかに、環境にとって危険を及ぼす可能性があるものは、なくすように改善・努力していくことは必要と思います。
ただ、たとえば、この苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)は、海水から得られる食塩水を電気分解すると容易に作れます。手作り石鹸の材料でも用いられる位ですし、また、私たちの生活になくてはならない「紙」の原料である紙(木材)パルプも苛性ソーダを用いてつくられています。
(参考)紙の原料=木材パルプの製造方法
木材を細断したもの(チップ)に苛性ソーダと硫化ソーダの混合液を加え、高温、高圧で処理すると、繊維以外のものを苛性ソーダが溶かして、繊維だけが残ります。この繊維素を脱液、洗浄し、苛性ソーダや塩素、さらし液等で漂白するとパルプができます。
(引用)株式会社トクヤマ Webサイト
重要なのは、活用の仕方、というか、製造において環境に悪影響を与えないような・地球環境と共生できるような製造方法を確実に行うことだと思います。環境負荷をかけている製造法であるとは思いますが、だからといって短絡的にレーヨンは環境汚染をしている=悪い と非難するのは避けたいと思います。
■中国のレーヨン工場
ところで、著者の経験からですが、中国の例(2000年頃から中国では竹レーヨンブームで湧きました。中国でつくられた竹レーヨンが、日本を含めて世界中に出荷されました。)で恐縮ですが、たしかにこの頃、このような粗悪な環境汚染の根源となるレーヨン工場が多数あったようです。浄水することなく、汚水を垂れ流したりした工場も多数あったようです。
ただ、この10年の中で、このような工場は国(中国政府も環境汚染対策には躍起になって改善を図っています)によって、一気に廃業に追い込まれました。かなり厳しい環境基準が制定され、そのレベルを超えられない工場は問答無用に営業できなくなりました。
いま残っているレーヨン工場は、大規模な環境対策を施し、地球環境(人体への影響も含めて)対策は、かなりのレベルでなされている、と考えてよいかと思います。
(日本にもレーヨン工場はあります。レーヨン工場が環境汚染の根源なのか?そうではないかと思います。環境汚染をしないための技術を用いて、環境との共生を図っているかと思います。)
■ただ、引っかかることは・・
ただ、引っかかることが3つあります。
ひとつは「竹レーヨン」の特徴として謳われている「竹が本来もつ天然の抗菌性が糸に活かされている」とされている点です。この点について、下記のような論文が発表されています。1、2をご覧ください。
1.竹レーヨンの原料である竹パルプに抗菌性があるのか不明
竹レーヨンの原料となる竹パルプ(前述したように竹をドロドロの溶液状に溶かしたもの)で、「抗菌性」が確認できなかった、との研究結果があります。
根拠論文紹介:
<日本>
『竹繊維の鑑別と消費性能』
(クリックするとPDFファイルで表示されます)
東京都立産業技術研究センター報告(池田善光, 小柴多佳子, 吉田弥生, 宮本香, 富永真理子 (2006) 、繊維製品消費科学47)
<アメリカ>
『An assessment of the validity of claims for “Bamboo” fibers. 』
(クリックするとPDFファイルで表示されます)
Ian R.Hardin, Susan S.Wilson, Renuka Dhandapani, and Vikram Dhende (2009)| ジョージア大学
2.竹レーヨンの抗菌性は、竹がもつ天然の抗菌性に由来しているのか?
上述したとおり、レーヨンは化学繊維です。天然素材に較べて、抗菌性といった機能性は付与しやすいものとされています。(糸をつくり出す溶剤の中に機能性を持たせる薬剤を投入するイメージ)。
実際、前述の東京都立産業技術研究センターの論文では、市販の竹レーヨンから、竹本来の成分以外である「硫黄分」が検出されたとの記載があります。これが、竹レーヨンの抗菌性をもたらす物質である可能性も示唆されています。
※上記1・2の点を明確に示していらっしゃる竹レーヨンメーカさんの文献がありましたら、ご教示くださいますと幸いです。追記させていただきます。
3.竹生地の特徴が、あたかもレーヨンの特徴になっている(ように思える)
これは各社のポリシーによるのかもしれませんが、肌触りのよさ、ドレープ感といったレーヨンの長所(上述しました)は、竹繊維そのものではなく、化学処理してカタチを変えた竹レーヨンの特徴となります。竹をオーガニックな素材として訴求しているメーカーが多い中、化学処理した糸を同じ土俵として捉えてよいものか疑問です。
■以上の点より
以上の点より、麻福では、「ヘンプ」と「竹レーヨン」とを合わすことには消極的です。
ただ、竹繊維そのものから糸をつくり出す「開繊竹繊維」の動向はチェックしたいと思います。こちらは、竹繊維そのものなので、竹本来の抗菌性はそのまま活きているようです。まだまだ入手しにくいもののようですが。ご縁あれば、いつの日かコラボできればよいなと思います。
(参考) 「開繊竹繊維」の糸『バングロ』
慈竹から竹繊維を取り出し、綿と棍棒した糸だそうです。まだ触ったことがありませんが、とても楽しみですね。
糸は既に市販されていらっしゃるので、「ヘンプ」「レーヨンでない竹」(+「綿」)の組み合わせでの製品づくりが可能になったのは楽しみです。
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