「ベンガラ」の過去と未来・・・その機能性について
当社製品で度々用いております「べんがら(ベンガラ・弁柄)染め」について改めて説明させていただきます。
■人類最古の赤色顔料
「べんがら」は、天然には酸化鉱物「赤鉄鉱(せきてっこう:ヘマタイト)」に含まれる「酸化鉄」です。この赤鉄鉱は、宝石にも加工されるくらいに美しいものもあり、しばしばブラックダイヤモンドとも呼ばれます。
なぜ「ブラック」なのか?赤鉄鉱の塊は黒なんです。ただ、粉末にすると赤色に変わります。緑~青系の光を吸収するために、粉末にして透過光を増やすと赤くなるそうです。
結晶美術館さんのWebサイトによると、なんとこの赤鉄鉱の結晶は「六角板状」です。そう麻の葉文様の六芒星を形成する形状といえます。(写真拝借します)
赤鉄鉱の結晶はとても美しいですね。コレクターも多くいらっしゃるそうです。
そんな、赤鉄鉱の粉末は顔料にも用いられ「人類最初の赤色顔料」といわれています。「ベンガラ」と呼ばれるのは、インドのベンガル地方で産出したことに由来してといわれています。
ただ、「ベンガラ」はベンガル地方だけのものではなく、世界中で採取できます。有名なのがフランスのラスコー洞窟、あるいは、スペインのアルタミラ洞窟(世界遺産)の赤色壁画。なんと旧石器時代の1万7000年前!!
■日本でも用いられてきた「べんがら」
「べんがら」は縄文時代より日本でも使われてきました。そう、ヘンプと同じく。
約7500年前の縄文早期。鹿児島県「上野原遺跡」周辺で塗彩土器がつくられ、ベンガラが利用されたそうです。(参考:岡山大学工学部 物質応用化学科 無機材料学研究室)
7世紀末・古墳時代では、高松塚古墳の壁画にもベンガラが使われていたそうです。
この高松塚古墳の壁画については、岡山大学 大学院 高田潤教授の論文『ベンガラの歴史と材料科学的研究』より紹介させていただきます。
石室の内壁面に漆喰を塗り、その上に描かれた人物像には極彩色が用いられています。ここで興味深いのは、2種類の赤色が使い分けられていることです。例えば、女人像の赤い上衣はベンガラで、帯の赤は朱(水銀朱,HgS)で彩色されています。これらは、全て天然の鉱物からの無機顔料であったために、変色することなく現在まで鮮やかな色を維持しています。
1000年以上も微細な色合いを保てる「べんがら」・・・凄い!! の一言ですよね。
そして、「ベンガラ」は”画材”だけでなく”建築”用途にも多く使われています。
有名なのは京都のベンガラ格子(紅殻格子:べんがらごうし)。京町家の外観をしつらえる大切な要素の一つですね。ベンガラの良好な耐候性や耐久性、そして、落ち着いた色合いが特徴。なんと金閣寺の”さび壁”にもベンガラが使われているそうです。上七軒や、島原、祇園にはまだ多く残されています。(写真は 祇園点景さんより)
べんがらは、「耐水性」「耐熱性」「耐光性」「耐アルカリ性」「耐酸性」「対防虫性」「防カビ性」に優れており、木材建築が多い日本家屋に欠かせないものでした。「べんがら」を用いることで、木材を厳しい天候にも耐えうるものにできます。
ちなみに、このベンガラが、大きく日本で普及したのは1700年代といわれています。1707年、国産「べんがら」が誕生。備中吹屋(岡山県)において、磁硫化鉄鉱より得られる緑礬を原料とした良質のベンガラ製造法が発見されました。
この吹屋地域はいまも「べんがら」で包まれた素敵な街並みを保っています。江戸時代から銅山の鉱山町として栄えた町。タイムスリップしたようです。Travel.jpさんの記事『ベンガラに彩られた赤い街並み ~吹屋(岡山県高梁市)』を是非ご覧ください。(以下写真は同生地より転載。写真:津田 泰輔 氏)
この「べんがら」は、こうした塗料や建材用途以外にも、化粧品、神社仏閣の彩りにも使われてきました。
■「べんがら」の可能性
そして現在、私たちの生活を支える様々な分野で活用されています。森下弁柄工業株式会社さんのWebより引用いたしますと:
樹脂、インキ、フィルムの着色剤をはじめ、道路や遊歩道の赤・黄色のアスファルト舗装、赤レンガ、赤・茶・黄・黒に着色されたブロックなど、セメント二次製品等の景観材料 としてまた、テレビ、電話、コンピューターのエレクトロニクス材料、モーターの磁芯などにも、酸化鉄をベースにした各種フェライト化合物が活躍しておりエレクトロニクス産業を支えています。この分野は、日本が世界をリードしており、また日本製べんがらを使った樹脂のマスターバッチや高級インキは、世界需要の大半を占めております。
なんと、日本の先端技術を支えていたとは!!! ご存じでしたか?
■繊維製品のべんがら染め
さて麻福では、繊維衣料品の染色に「べんがら」を用いています。「べんがら」は燃焼温度と調合によって豊かな色合いをつくりだすことができます。
その主な特徴は以下のとおりです。
1.人体に無害。素手で染められるくらいに肌にもやさしいです。
2.防虫・防腐作用がある(既述)。
3.UVカット性が向上。身体へ悪影響を及ぼす紫外線をカットします。
4、日光堅牢度が強い。日光にあたっても、色あせしません。(藍染め、草木等の自然染めは色あせに弱いです)
5.染色にあたり劇薬を用いなくてよい。家庭排水でOKです。
6.お湯を用いなくてもよい。(お湯を沸かすエネルギーが省けます。また火傷の心配もありません。)
7.やさしい色合い。癒されます。
最近は、オーガニックコットン製品の染色としても、よく用いられるようになってきました。
■麻福の「べんがら」染め
実は、繊維用途の「べんがら」にもいくつか種類ややり方がございます。麻福のべんがら染めの特徴は以下のように思ってます。”こだわり”の領域と言ってもよいかもしれません。
A. 定着剤であるラテックスを含まない「べんがら」剤。ラテックスフリー
B. 水のみで染色。下染剤は使いません。
C. 1枚1枚丁寧に職人が心を込めて「手染め」しております。
D. 色落ちしなくなるまで何度も何度も洗います(色落ち対策)
昨今、繊維用の「べんがら」剤として「(定着剤として)ラテックス入り」のもの、また染色時に「下染剤の使用」を推奨する動きがございますが、麻福としては「べんがら」の純度を保ちたいために用いておりません。
「べんがら」は “染料”でなく、”顔料” です。染料は化学的に結合させて染色しますが、顔料は、色のついた細かな粒子状の物体を繊維に接着することで染めています。(図転載元)
顔料である「べんがら」は、繊維と固定するための何かしらの定着剤が必要となります。
そこで 天然ゴムである「ラテックス」を媒染剤として利用する方法が考えだされたわけですが、気になるのは「ラテックス」による副作用。まず頭に浮かぶのが「ラテックス(天然ゴム)アレルギー」。そして、ラテックスが入ることで「べんがら」の機能性に何かしら影響を及ぼさないのかどうか?? 前者(ラテックス・アレルギー)は、よく病院の看護師さんで悩まれている方が多いですね。使い捨て手袋の材料にラテックスがよく使われます。後者は著者の疑問です。公式資料は見つからないのであくまでも可能性レベルの疑問です。
ラテックスアレルギーの原因成分は、天然ゴムに含まれている「たんぱく質」とされています。いまよく販売されている繊維用の「べんがら」剤は、この「たんぱく質」を除去しているので安全性は保たれているようです。ただ、医療関係の方から聞いた話では、限りなくゼロに近づけたあくまでも「極微量ラテックス」という表現になるようです。(たとえば、住友ゴムさんの医療用ラテックス手袋では 1/200~1/900という表現をとられています。)
ほとんど全ての方には問題ないとは思いますが、どうせならば「べんがら」だけで染めたいと思うのでした。同じ理由で「下染剤」も利用しておりません。たしかに、濃い色は出せるのですが。。
麻福では、とにかく「超微粉末のパウダー状」のしたべんがら顔料を用いて、繊維に押さえつけるように擦り込み、ヘンプの微細な繊維(微細な穴が無数にあります)に入り込むようにして手染めしています。その分、水で洗い落とす手間はかかるのですが、微細な繊維に入り込んだ「べんがら」は洗濯しても大きく色落ちしないくらいに収まります。(従いまして、濃い色合いは出せません)
■べんがら型染めについて
「べんがら」の型染めのご要望をお受けすることが多いのですが、以上の考えにもとづき、私どもの「べんがら染め」では対応ができません。恐れ入りますが、ご理解いただきたいと思います。
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